2020年、5冊目の読書感想です。
犯罪小説集 (角川文庫) [ 吉田 修一 ]
も、ものものしいタイトルですね(;゚Д゚)
内容紹介
吉田修一さんによる、人が罪を犯すまでに堕ちてしまう、その過程を丁寧に描いた5編の短編集です。
このうち2編を元にして映画化もされていますね。
私も映画化で話題になったことをきっかけに、本を手に取りました(映画は見てないんですけどね)。
こちらの本、読み始めるとすぐ分かるのですが、どれも「あれ?この話どこかで聞いたことあるぞ?」という内容です。
そう、5編とも過去に実際にあった事件や犯罪をモチーフにしているのです。
登場する人物の立場や事件の経緯など、実際の事件をかなり忠実になぞっている(ように思える)ものもあれば、ベースにはしているけれど大きく状況を変えて描いているものなど、濃淡はあります。
が、共通しているのは、とにかくどの話も何とも言えず切なくて悲しい終わり方というところ。
「犯罪」がテーマなので、ハッピーエンドなわけがないのは当たり前なのですが、それに加えて、当事者の心情もその後の顛末もあえて分かりやすく描ききらないというか、「え?それでどうなるの!?」というところで終わる話も多く、それがまた読後感の悪さを生み出しているんですよね。
雑にカテゴライズするならば、いわゆる「いやミス」というジャンルの本と言えますかね。苦手な方は苦手かも?
でも、それゆえに引き込まれてしまい、読み始めたら止まらない1冊。 短編ですがひとつひとつがずっしり重く、中途半端な中編〜長編小説よりずっと読み応えがあると思います。
歯車は少しずつ狂う
読んでいてどうしてこんなに重くて悲しい気持ちになるのかな?と突き詰めてみると、最終的に犯罪に至ってしまうまでの過程に、他人事で済まされないリアルさがあるからなんですよね。
人はある日突然堕ちてしまうのではなく、気付かないくらい少しずつ少しずつ進む方向が狂っていって、気が付いたときにはもう後戻りできないくらい違うところにいた・・・というその過程がとても身につまされるのです。
特にそれを強く感じたのが最後の「白球白蛇伝」。プロ野球の元スター選手の転落劇を描いた一編です。
当初、清原選手をモチーフにしているのかと思ったのですが、そうではなく元千葉ロッテの小川博選手の事件をベースにしているようですね。
野球選手として順調だったはずの人生の歯車がほんの少しずつ狂っていって、分かってはいるのに見て見ぬ振りをして過去の輝かしい時代のままの生き方を止められない。
結果、最悪の結末となってしまうという・・・。
この短編は少年野球のシーンで始まり、少年野球のシーンで終わるのですが、その理由がラストで分かるようになっていて、その部分を読んだときの居たたまれなさと言ったら・・・。
本人も被害者ももちろん不幸ですが、見えないところで苦しむ影の被害者は誰なんだろうかと考えさせられもしました。
影の被害者に思いを馳せる1冊
この、影で苦しんだ被害者は・・・という似たような感想を抱いた本がありました。
グリコ森永事件を忠実にトレースしつつ、子供時代の自分の声が事件の脅迫音声に使われていたと気付いたテーラーと、未解決事件を追う新聞記者が事件の真相に迫っていくというミステリー。
あ、図らずもこちらも実際の事件をモチーフにしていますね。
このストーリーでも、「影の被害者」がひとつの大きなテーマで、最後にたどり着く答えはとても重くて悲しい・・・。
でもこちらは希望の持てる終わり方なのでホッとします。
月並みな感想ですが、自分自身はもちろん身近な人たちもみんな、犯罪とは無縁で生きていきたいなと心底思いますよね。
以上、「犯罪小説集」読書感想でした!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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