教育格差を考える。【みかづき】森絵都

小説
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2020年、最初に読んだ1冊です。


みかづき (集英社文庫(日本)) [ 森 絵都 ]

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内容紹介

舞台は昭和36年。小学校の用務員として働きつつ、落ちこぼれた子供たちの勉強を用務員室で見てあげていた大島吾郎が、ある女子生徒の母(シングルマザー)である千明に説き伏せられて一緒に学習塾を始めるところから物語はスタートします。

2人はその後結婚。物語の視点は、妻の千明、そして吾郎の孫の一郎へと変わりながら、やはりずっと中心に「学習塾」を据えて紡がれていく壮大なストーリーです。

本の内容紹介では「大河小説」という言葉が使われているのですが、まさにその通りで、数十年に及ぶ壮大な時間軸の小説なのです。

意外にも人間くさいストーリー

実は読み始める前は、
「教えることへの飽くなき情熱を持ち、夫婦で支え合いながら塾を経営していく涙のハートフルストーリー」
みたいなイメージを勝手に持っていたのですが、全然違っていて(;’∀’)
もっとドロドロ、ギスギスしてかなり人間くさいストーリーでした。

吾郎も千明も聖人からはほど遠く、吾郎のどうしようもないだらしなさや、千明の「教育」というより「経営」視点に偏った塾への関わり方、きれい事で済まされないお金の話や塾間の熾烈なライバル争い、そして夫婦や親子間の確執なんかも描かれていて、意外なほど読んでいて辛くなるシーンも多かったのです。

でも、だからこそ引き込まれてしまってページを捲る手が止まらず、かなり長いストーリーなのに一気に読了してしまいました。
とにかく読み応えのある一冊です。

考えさせられる「教育格差」

そんな人間味あふれるドロドロストーリーを追う一方で、日本の過去数十年における学習塾の歴史が良く分かる一冊でもありました。

「学校教育の敵」と見なされ悪者扱いされていた黎明期。
過熱する受験競争や公教育に対する不信感などから学習塾の存在感が増していった拡大期。
そして、子供たちの経済格差が開いてきて、塾という場所にアクセスさえできない子供に対してできることを模索していく現代(ここは勝手に転換期と名付けましょうか)。

時代と共に塾の在り方、求められることが変遷してきたことが良く分かります。
大雑把にこの「みかづき」のストーリーを分けるならば、黎明期は吾郎の視点、拡大期は千明の視点、転換期は一郎の視点と言って良いと思います。

そしてやっぱりいろいろと考えさせられたのは、転換期とも言える現代の塾の在り方。
ここでは上述のように「塾にアクセスできない子供」にスポットが当てられており、 一郎の視点で紡がれる 「教育格差問題」が最終的には一番心に残りました。

そう、「塾に通えること」自体が、今やある程度「恵まれた」側にいることの証でもあるんですよね。親の経済力はもちろんのこと、親にそれなりに教育熱心さがないと「塾に通う」という行為が選択肢に上がることさえないわけで。
塾や私立の学校などの私教育にアクセスできるかという時点で既に格差があり、アクセスできることによってさらに格差は開いていく・・・。

2019年の東大入学式祝辞で上野千鶴子さんが述べたこの言葉は、本当に的を射ていますよね。

がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。

平成31年度東京大学学部入学式 祝辞

公教育からも取り残され、でも塾という私教育にアクセスすることもできず、そのまま落ちこぼれていってしまう子供をどうすくい上げていくのか。
この「みかづき」のストーリーの中でも、そして実際の社会においても、今は善意のボランティアに頼るしかないのが現状なわけです。

と偉そうに書いてみたところで、人の親である私もやっぱり「自分の子供が一番」なわけで、自分の子が「落ちこぼれる側」にならないようにと日々腐心するのみ。きれい事を言ったって、結局どこかの知らない子供のために行動を起こせるわけでもないですからね・・・。

この最後のパートで、少し重い課題を突き付けられたようにも感じました。

教育格差を考えるニ冊

ということで、最後はちょっと話がズレてしまいましたが、せっかくなので「教育格差」を象徴する二冊を紹介して記事を終えたいと思います。

格差の上側をひた走る子供たち

一冊目はコチラ。


いま、ここで輝く。 超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡 [ おおたとしまさ ]

栄光学園(神奈川にある私立の中高一貫男子校)のカリスマ数学教師、井本陽久さんへの密着ルポです。
私立の名門校への入学を勝ち取り、さらにこうしたカリスマ教師による素晴らしい教育を受けられるという、格差の上側を全力でさらに上へと駆け上っていく子供たち。

うらやましく思うと同時に、そこにアクセスすることさえ叶わない子供の存在を考えると、少し悲しみを覚えた1冊でした。

教育から取り残される子供たち

二冊目はコチラ。


ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書) [ 宮口 幸治 ]

こちらは話題になっていた本なので、読んだ方も多いのではと思います。
犯罪を犯してしまった非行少年たちの中には、そもそもの認知能力に問題があって簡単な読み書きさえもできない子も一定数いるという衝撃的な内容です。
まさに「公教育からも私教育も取り残されてしまった存在」と言えるのではないでしょうか。

この二冊を読み比べると、同じ日本にいながら決して交わらないパラレルワールドが存在するようなそんな不思議な気持ちになります。ぜひ比較して読んでみてください。

以上、【みかづき】読書感想でした!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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