永遠の娘。【母性】湊かなえ

小説
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2020年、21冊目の読書感想です。


母性 (新潮文庫) [ 湊かなえ ]

タイトルは「母性」ですが、テーマとしては「母」と「娘」でしょうか。
今回ちょっと辛口レビューとなります(;’∀’)

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「母性」と「娘性」

物語は、一人の女子高生が自殺と思われる転落事故を起こし、その母親が、

愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて信じられません

と語ったというひとつのニュースから始まります。

愛能う限り・・・、これは「あいあたうかぎり」と読みまして、「できる限り」ってな意味合いだそうです。え?常識?
まぁ普通に生きてたら使わない(ですよね?)こんな言葉を、動転しているはずの母親がサラッと使ったというところがひとつのポイントとなっていまして。

ストーリーの軸の一つは、この「愛能う限り」から始まる母親のコメントに違和感を感じた一人の教師と、その同僚の教師との会話。

そしてもう一つのストーリーの軸は、とある母と娘。
何かを悔いている母の手記と、娘の立場からの回想とが、交互に繰り返されながら、時間軸が進んでいきます。

誰かの「母」であるということは、元々は誰かの「娘」であったわけで、子供を産んだ女性というのは必ず「母」でもあり「娘」でもあるわけです。
つまり「母性」と「娘性」(この言葉が適切か分かりませんが)は、一人の女性の中に同時に存在するわけで。

ただ、生まれながらに持っている「娘性」と異なり(生まれ落ちた瞬間から「娘」ですからね)、「母性」の方は、大人になり、子供を産み、その子を育てながら少しずつ育まれていくものであろうと思います。

母になったからと言って「娘性」がゼロになるものでもないでしょうし、子育てしながら育まれる「母性」の強さも人それぞれでしょうが、徐々に「娘性」から「母性」が強くなる方向にシフトしていくのが一般的でありましょう。

が、この手記を書いている「母」は、
「娘性」オンリー「母性」ゼロ
子供を産んでも絶望的に「娘」のままなんですね。

そう、まさに母性、永遠の0。

母になれない、永遠の仔。

永遠って言いたいだけやろ。

とにかく一番大好きなのは自分の母親で、行動原理は常に「お母さんが喜ぶかどうか」

結婚する相手もお母さんが気に入った人。

娘を慈しんで育てるのもお母さんが喜ぶから。

何でもかんでも、お母さん、お母さん。

この「母」が敬愛する母親は不幸な事故で亡くなってしまうのですが、その後も彼女の行動原理は変わりません。

そして娘の方は、そんな母に愛されたくて自分の方を向いて欲しくて、もがき苦しむも裏目裏目に出る・・・。

合間合間で延々と、姑と小姑による嫁いびりが描かれます(嫁=この「母」ね)。

そんなある日、母が隠していた彼女の母親(娘から見ると祖母)の事故の真相を、図らずも知ってしまった娘が取った行動は・・・。

てな感じのストーリーです。

この「母」の「娘っぷり」の異常性を静かに浮かび上がらせつつも、途中出てきたいくつかの伏線(教師同士の会話も含め)はキッチリ回収し、ラストは明るい感じでスッキリ終わるので、読後感は悪くありません。

んが。

感想を一言で言いますと・・・。

そうですね・・・。

うーん。

1ミリも共感できない。

というところでしょうか。

誰にも感情移入できないの

「母性」よりも「娘性」の強すぎる女性を描くことで、逆に「母性とはなんぞや」ということを問いかけたいんだろうと理解はしつつも、この「母」の行動や考えに共感できるところが皆無なので、読んでいてまーったく感情移入できないんですよね。

「ちょっと行きすぎだけど、この気持ちは分かる・・・!」とか「あ、私にもこういうところがあるかも・・・」みたいな部分がないので、あまりにリアリティがなさすぎるというか、

ただの異常な母親じゃん・・・。

としか私は思えませんでした。

直前に読んだ角田光代さんの「紙の月」が。

自分は絶対こんな行動しないだろうと思うのに、めちゃくちゃ感情移入して自分を重ねてしまうストーリーだったのと何とも対照的で。

この「母」だけでなく、彼女をいびりまくる姑も、彼女に面倒を押し付ける小姑も、夫の不倫相手の女性も、出てくる人物出てくる人物、誰にも共感できるところがなく・・・。
夫はクソ過ぎるので置いておくとしても。

これだけ女性を登場させながら、こんなにも誰にも感情移入できない小説ってのも逆に珍しいなと思いましたよ。
ひょっとしてそれが狙い?

湊かなえさん、初めて読んだ「告白」では度肝を抜かれて。

その後何冊か読んだ著作も面白かったように記憶しているので、

あれ?こんな心理描写がイマイチだったっけ?

とちょっぴりガッカリしてしまったというのが正直なところです。

うーん、でもレビューはそんなに悪くないんですよね。

もしかしたら、全く共感できないのは、私が「母と娘」という関係性において(幸いにも)何ら問題を抱えていないからかもしれません・・・。
息子しかいないしな。

ま、どっちにしても、世界観に浸って登場人物に自分を重ねながら読むというよりは、ミステリー的にハラハラドキドキを楽しんで読む小説と捉えた方がいいのかもしれません。
いろいろ辛口なこと書きましたが、「共感」とか「リアリティ」とか考えなければ面白いことは面白いです。

母と娘がテーマならこちら

同じく「母と娘」がテーマとなっている小説としては、最近読んだ「八日目の蝉」の方が、私としては圧倒的に読み応えがありました。

不倫相手の子供を連れ去って自分の子として育ててしまう女性の話。

この女性だけでなく、たくさんの「母と娘」が登場するのですが、どの母の気持ちも身につまされるものがあり、涙なしでは読めない1冊です。

まぁでも人によって、どこに共感できるかは違うかもしれないですよね(当たり前か)。
気になる方はぜひ読み比べを♪

ということで、【母性】読書感想でした!
角田光代さん推しの記事になってしまって失礼しました(;’∀’)

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