2020年、33冊目の読書感想です。
3ヶ月ぶりに複数冊読んだ月間となりました。
北国の湿原を背にするラブホテル。生活に諦念や倦怠を感じる男と女は“非日常”を求めてその扉を開くー。恋人から投稿ヌード写真の撮影に誘われた女性事務員。貧乏寺の維持のために檀家たちと肌を重ねる住職の妻。アダルト玩具会社の社員とホテル経営者の娘。ささやかな昴揚の後、彼らは安らぎと寂しさを手に、部屋を出て行く。人生の一瞬の煌めきを鮮やかに描く全7編。第149回直木賞受賞作。
内容紹介(「Book」データベースより)
桜木紫乃さん、初読みの作家さんです。
2013年の上半期に直木賞を受賞された作品ということで、タイトルこそ耳にしたことがありましたが、これまで手に取ろうと思ったことがありませんでした。
ラブホテルが舞台の連作短編集
本のタイトルにもなっている「ホテルローヤル」という、北海道の釧路にあるラブホテルを舞台にした連作短編集です。
一話目ではホテルローヤルは既に廃墟になっているのですが、二話目、三話目・・・と段々時間を遡っていき、ホテルローヤルの開業前の物語が最終話で描かれています。
全く予備知識なしで読み始めたので(図書館でふと目に付いて借りてみました)、何となく「ホテルローヤル」に客として訪れる様々な人を描いた短編なのかな?なんて読む前は思っていたのですが、もっと関わり方の濃淡は幅広く、客であったり従業員であったり、もっと遠い関係であったり、はたまたストーリーの中で「ホテルローヤル」という言葉は全く出てこない物語もあったりします。
直木賞受賞という話題作だったので、それぞれの短編のあらすじを紹介している書評サイトなんかもあったりしますが・・・。
これは、予備知識なしで読んだ方がぜーったい良い1冊だと思います。
ネタバレとかそういうのではなく、「この短編に出てくるのはこういう人だよね」って分かっていながら読むよりも、登場人物の置かれた立場やホテルローヤルとの関係が、物語の中で徐々に紐解かれていく流れに身を任せた方がぐっと心に沁みると思うのです。
それぞれの物語の場面や人物がほんの少しずつリンクしていたりもするのですが、それも事前に知っているとちょっと興醒めかな~。読みながら「あれ?この人って確か・・・」とパラパラと読み返したり、そういう行きつ戻りつも楽しんだ方が良いと思います。
なので、(もしかしたらこれから読む方がこの記事を読んでいるかもしれないので)あらすじはここでは触れないことにします。
暗いのに明るい不思議な空気感
私、直木賞受賞作品だからとあまり積極的には読まないのですが(フットワークが重いの)、この「ホテルローヤル」は。
こ、これが直木賞受賞作の底力か・・・!!
と恐れ入るくらいとっても良かったです。
どこが良かったってうまく言えないのですが・・・。
それぞれの短編の登場人物たちは、分かりやすい不幸な境遇にいるわけではないのですが、でも決して手放しで幸せとも言えない、日々ギリギリの暮らしをしている人たちで。
その境遇はなんだか息苦しく切ないのですが、それなのになぜか物語に漂う空気感が陰鬱なものではないんですよね。
やり切れない日々の先に、ほんの少し見える小さな光を両手でそっと温めているような、そんな登場人物たちに自分を重ねながらそっと寄り添いたくなるような・・・。
ハッピーエンドじゃないのに(むしろ不幸な結末を示唆する物語もあるのに)、なぜか読み終わった後にじんわり心が温かくなる・・・。
すっごく不思議な空気感の1冊だなと思いました。
総じて言うと・・・。
桜木紫乃さん、うまいな~!!
という感じでしょうか。
一話一話がストーリーも文章もよく練られていて心に沁みるというのはもちろん、時間を遡る形としていることで(時系列で開業から廃墟になるまでを書いていくよりも)より切なさが際立ちますし、それぞれの物語の重なり具合も絶妙。
本当にどっぷり空気感に浸って、「小説を読むのって楽しいな~」と思わせてくれる1冊でした。
名だたる文学賞を受賞する作品ってやっぱりそれなりの理由がありますね(;’∀’)
上述のように桜木紫乃さんの作品は初めて読んだのですが、他にもいろいろ読んでみたい!!と俄然気になり始めた私であります。
「ホテルローヤル」自体も今秋映画化されているということで、ちょっと気になりますね♪
以上、【ホテルローヤル】読書感想でした!
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