2020年、14冊目の読書感想です。
テレビドラマ化や映画化もされた、角田光代さんの小説。
テーマは・・・「母と娘」ですかね。
母になりたい女性の話
ストーリーは、内容紹介に書かれたこの悲痛な言葉に尽きると言っていいと思います。
逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか……。
「Book」データベースより
ズルズルと続く不倫を終わらせるために、 不倫相手の家庭に生まれた赤ちゃんを一目見ようと忍び込んだ家から、衝動的にその赤ちゃんを連れ去ってしまう希和子。
その子を薫と名付け、旧友の家、声をかけてくれた見知らぬ老女の家、そして宗教施設と逃亡を続けた後、瀬戸内海の小豆島で母と娘として暮らし始める。
しかし数年後、ふとしたきっかけで捜査の手が伸びてきて・・・。
前半はこの希和子の視点で、そして後半は親元に戻され成長した薫(本当の名前は恵理菜)の視点で物語が紡がれます。
もうね・・・。月並みな言い方ですが、
涙なしでは読めない1冊です。
希和子のやっていることはまさしく「誘拐」で犯罪以外の何物でもなく、子供を連れ去るなんて妻側から見たらどんな言葉を尽くしても許せることではないでしょう。
でもそれと同時に、小さな薫があまりに愛しくて手放せなくなってしまう、いつか終わりが来ると分かっていても少しでも母で居続けたい希和子の気持ちも分かりすぎるほど分かってしまうんですよね。
希和子と薫が母娘として過ごしたのは、生後6ヶ月頃~4歳を少し過ぎた頃なのですが、その年頃の子供って。
めちゃくちゃ愛しいですよね。←そこ?
いや、もちろん子供はその後もずっとかわいいですけど、その頃の全幅の信頼を母において100%頼り切っているが故の愛しさというか・・・。
怖いことや嫌なことがあっても、母親にしがみついて顔をうずめてさえいれば大丈夫なんだと信じ切っている小さな体のいじらしさというか・・・。
我が家の長男はもう小学校高学年ですが、この頃の愛しさを思い出すだけで、
ごはん3杯は食べられるよね。
え?聞いてない?
その愛しさを知ると、手放すなんてとてもできないですよね。そんな希和子の心情描写がとってもリアルで、「逃げて、逃げて」と祈るような思いになってしまうのです。
でも逆に言うと、本当の母親はその愛しい年頃の子供との触れ合いや子育ての喜びをまるごと奪われてしまったわけで。
薫(恵理菜)の生みの親であり不倫相手の妻である女性は、攻撃的で不安定な人格として描かれているのですが、でもやっぱりこの女性の痛みもすごく共感できるところではあるのです。
とにかくどちらの立場から見ても悲しい悲しいストーリーでした。
ま、結局は不倫していた男性がクソなわけですが、それは置いておいて。
いろんな母と娘の在り方
最初に読んだときはとにかくストーリーの展開が気になって、希和子と薫の心情ばかりを追ってどんどん読み進めてしまったのですが、何度か読み返してみると(3~4回くらい読み返しました)、話の中にたくさんの「母親と娘」が登場していることに気付くんですよね。
希和子、薫(恵理菜)の本当の母だけでなく、
古い母子手帳を大事にしまっている、かくまってくれた見知らぬ老女。 そこに辛辣な口調で電話をかけてくる娘らしき女性。
宗教施設で出会った、子供の親権を離婚した元夫に取られてしまった女性。
小豆島で希和子を雇ってくれた、離婚した娘を受け入れてあげなかったことを悔やんでいる女性。
いろいろな母と娘の関係が描かれていて、どの関係も少し物悲しい・・・。
それぞれの女性がふと呟く言葉に、それぞれの後悔や悲しみを感じて、読むたびに違うシーンで私は泣きました。
そして、これまた月並みな感想なのですが、子供を何の後ろめたい思いもなく愛して、こんな日々が間違いなく続いていくと信じられる我が身の平凡さを大事にしたいと心底思いました。
希望のラストと小豆島の色
角田光代さんの小説って、心情描写のリアルさゆえに後味が悪いものも結構多いですが(なので心が元気じゃないと読めないの・・・)、この本は悲しいけれど希望に満ちたラストで、とっても清々しい読後感でした。
読み終わった後しばし茫然としてしまったくらい世界観に入り込み、そして感情移入してしまう1冊。
今まで読んだ角田光代作品のNo.1かも!?
めちゃくちゃおススメです。
そして、今回この感想記事のアイキャッチにしようと小豆島の画像を検索していたのですが、小豆島ってすっごく青と緑のコントラストが美しいところなんですね。
そんな写真を眺めていたら、「あぁ、この色合いの景色の中で希和子と薫は母娘として暮らしていたんだな」なんて思ってしまって、また泣けてしまった。
感情移入に拍車をかけるため、読む前に小豆島の風景を目に焼き付けておくことをおススメしたい私であります。
以上、【八日目の蝉】読書感想でした!
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