2020年、19冊目の読書感想です。
な、なんとも「こういう本です」とはひと言で形容しにくい、朝比奈あすかさんの短編集です。
テーマは小説家
一応「連作短編集」と銘打たれているんですが、収められている6編の登場人物や舞台がリンクしているわけではなく、共通するのはどの話も「語り手が小説家である」ということのみ。
で、オフィシャルな本の紹介文はこうなっております。
生きづらさも涙も、明日の力こぶに変わる。はち切れそうな女たちの不器用な愛。全六篇収録。
「BOOK」データベースより
この文章読むと、何となく「前向き」で「希望にあふれる」ような感じの短編集なのかな~と思うでしょ?
でも・・・。
想像とだいぶ違いました(;’∀’)
予備知識なしで読み始めると、度肝を抜かれるのでご覚悟ください。
気分はジェットコースター
一話目のタイトルは「初恋」。
恋愛小説家が、中高一貫の私立女子校に通っていた中学生時代に、同性の先輩に恋心と言っていい狂おしいほどの憧れを抱いていたことを振り返る話なのですが。
これはまぁとっても爽やかなお話なのよ。
朝比奈あすかさんの著作としては珍しいくらい、ヒリヒリ感ゼロの爽やかな青春ストーリーだな~なんて思ったほど。
女子同士の恋愛感情に近い関係性とか、パッと火花のように一瞬だけ燃え上がってすぐ冷めるなんてのは、その年代だとありがちですもんね。
なので、
お、これは爽やか系短編集なのね。
と思ってページをめくると。
二話目でいきなり叩きのめされます。
二話目のタイトルは「譲治のために」。
一話目の青春ストーリーから一転、冒頭から明らかに精神を病んでいる女性の独白がずーっと続き・・・。
どうやら息子との関係に何か問題があったらしいことはだんだん分かってくるのですが、その女性の視点だけで語られるストーリーはあっち行ったりこっち行ったり。
あれ?これ、話がどこに進んでいくの?と戸惑っていると、終盤でかなり衝撃的な事実がサラリと語られて(そこ本質じゃありませんけど何か?みたいなノリで)、そのまままたグルグル病んだ独白に戻っていく・・・。
ヒェ―!闇が深すぎ!!
爽やか青春ストーリーだった一話目との落差がヤベェんですよ。
メリーゴーラウンドと思って乗っていたら、気付いたらお化け屋敷の中にいた。
みたいな。
という感じでですね、前向きで明るい気持ちになれる短編と、読んでいるこちらまで心を蝕まれるような倒錯気味の短編が入り乱れるように収められていて・・・。
すっげー翻弄される!!
短編の並べ方も、おそらく意図的に陽と陰をごちゃ混ぜにして振れ幅を大きくしているんでしょうね。
あれ?今ジェットコースター乗ってた?という読後感の1冊でありました。
イチオシは四話目
それぞれに短編ながら語り手の個性が際立っていて面白いんですけど、何と言っても秀逸だと思ったのは四話目。
語り手は2歳の男の子を育てるシングルマザー。彼女の職業は、
官能小説家(エロ小説家)
なのです。
タイトルはそのまんま「官能小説家の一日」。
乳飲み子を育てる日々のどうしようもない生活感・・・、家を出る直前のウ○チとか、寝かしつけ完了と思ったら起きてきて舌打ちしながら乳を飲ませるやっつけ感とか、クラクラするような高額の保育料とか、別れた元夫のだらしなさとか、そういったリアルな日常と、その対極にあるような職業として紡ぐエロい文章。
そのギャップがめちゃくちゃ面白い。
でも一方で、誇りを持って官能小説を書いているのがしびれるくらいカッチョいい。
私は、私ができるうちは、私なりの仕事をしたい。エロい文章を売ってます。でも、この仕事に誇りを持ってもいる。書きたくないものは書かない。
あーこんな心意気で仕事がしたい!
ラスト、息子の寝顔を見ながらこう呟くシーンの清々しさよ。
あんたのため、だけじゃないよ。自分のために、働くよ。
どんな仕事でも胸張ってやっていこう!と思える、全てのワーママへのエールのような短編でした。
少し心が元気になれる、この1編だけでもぜひ読んで欲しい~!
私的にはとてもおススメの1冊であります。
以上、【みなさんの爆弾】読書感想でした♪
コメント