2020年、27冊目の読書感想です。
十年前に妻を失うも、最近心揺れる女性に出会った津村。しかし罪悪感で喪失からの一歩を踏み出せずにいた。そんな中、遺された手帳に「だれもわかってくれない」という妻の言葉を見つけ…。彼女はどんな気持ちで死んでいったのかー。わからない、取り戻せない、どうしようもない。心に「ない」を抱える人々を痛いほど繊細に描いた代表作。
内容紹介(「Book」データベースより)
初読み作家月間なので
今月は読んだことのない作家さんを中心に読もう!と思っていて、彩瀬まるさんの著作を初めて手に取ってみました。
実は彩瀬まるさんのお名前を知ったのもごく最近なのですが、結構いろんな文学賞を受賞されたり受賞候補になったりしているんですね~!
こちらの「骨を彩る」は5編の物語から成っていて、それぞれの物語の登場人物が少しずつリンクしている連作短編集です。
登場人物のリンクだけでなく、5編に共通しているのは「喪失感」でしょうか。
それぞれの喪失感を描く
最初の短編「指のたより」の視点は、不動産事務所を営む津村。十年前に妻を29歳で亡くし、中学生の娘と2人で暮らしています。
妻の遺した手帳を久々に目にしたことがきっかけで、美談では済ませられない闘病中の様々な出来事――妻に罵るようにぶつけられた言葉や、だんだん妻をいたわれなくなっていった自分の感情などが徐々に思い出され・・・。
・・・とあらすじを書くだけでもヒリヒリ感がありますね(;’∀’)
この後に続く物語の主人公もみな何かしらの「喪失感」を抱えており、少し読んでいてしんどいところもありました。
特に30代の女性の視点で紡がれる2編目「古生代のバームロール」、3編目「ばらばら」は、共感できるポイントがありすぎて余計しんどかった・・・。
どの物語も、それぞれの日常を淡々と描きつつも前向きなラストシーンへとつながる展開ではあるのですが、それでもなんとなーくモヤモヤしたしんどい気持ちを消化しきれないまま読んでいくと・・・。
最後の5編目「やわらかい骨」のラストシーンが1編目のとあるエピソードとつながり、パーっと視界が晴れるようなスッキリした気持ちで読み終わるのです。
このラストシーンへの導きがとっても秀逸!途中しんどくてもぜひ最後まで読んで欲しい1冊です。
ちなみに5編目の主人公は、1編目の主人公・津村の娘の小春で、転校生の葵との友情を中心に物語が進んでいきます。
母親を亡くしている小春自身が、「母親がいるのが当たり前」という周囲の「普通」にいら立ちつつも、両親が入信している宗教団体の縛りから自由になれない葵に対し、何の悪気もなく自分の「普通」を押し付けてしまうんですよね。
「葵は、けっこう普通なのに」
呟くと、葵の横顔が陰った。ううん、と曖昧に喉を鳴らしてベンチに座る。コンビニの袋を開き、ふと途方に暮れたような青い顔で小春を見ると、膝にのせた右手の指をぴくりと痙攣させた。わなわなと震えながら、持ち上がった指先が喉元へ触れる。
眉尻が下がった葵の顔は、途端に頼りなく、幼くなった。
「普通に、なれない」
「葵」
「きらわないで」
うつむいた顔から、大粒の涙がぽたぽたと落ちる。
一番切なくて印象に残ったのがこのシーンでした。
「普通」になりたい。
でも「普通」になれない。
みんなそれぞれ抱えているものがあるのに、自分以外の人が抱えているものにはなかなか思いを馳せられず、無邪気に自分の「普通」を振りかざす。
「強く、強く、なんのうたがいもなく怒ったり、責めたり出来る、のは、その物事に関わりがない人」
これ、葵の言葉なのですが、何となく昨今の新型コロナウイルス騒動で吹き荒れる批判にも通じるものがあるなと思った私でした・・・。
人はそれぞれ違っていて「普通」なんてないのかもしれないけれど、「お母さん」と呼び掛けられる「普通」が欲しかったんだという自分の思いに気付いた小春が流す涙には、胸がギュッと締め付けられます。
すっごく泣ける!というお涙ちょうだいモノではないのですが、清々しくて読後感がとっても良かった。
柔らかくて瑞々しいものに触れた!
という気持ちになる1冊でした。
彩瀬まるさん、いろんな作風の著作があるそうなので、他の著作も読んでみたいと思います。
以上、【骨を彩る】読書感想でした!
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