2020年、20冊目の読書感想です。
なんかキリがいい数字!
先月「八日目の蝉」を読んでから。
角田光代熱が久々に再燃しまして、読みたい本リストにいろいろ突っ込んだ中の1冊です。
対岸のリアル
「八日目の蝉」と同様、こちらもドラマ化&映画化されているので、ストーリーをご存知の方も多いと思います。
平凡な専業主婦だった梨花は、時間を持て余して銀行でパートタイムの仕事を始める。丁寧な対応で上司や顧客の信用を得て着実に成果を上げていくものの、顧客の孫である大学生の光太と偶然出会ったことで人生が狂い始める・・・。
光太と関係を持った後に、彼が借金を抱えていることを知った梨花は、定期預金証書を偽造して顧客から250万円を騙し取り、借金の返済に当てさせる。
それっきりのつもりだった不正行為が、いくつかの偶然が重なったことによりどんどんエスカレートしていき、やがて不正行為を隠すために不正行為を重ねるという自転車操業に・・・。
そんなとき勤務先の支店に査察が入ることになり、これ以上続けられないと悟った梨花が逃げた先は・・・。
てなストーリーです。
いやぁ・・・。
なんとまぁヒリヒリするストーリーなんでしょう(;’∀’)
破滅に向かっているのにも関わらず梨花が感じている謎の万能感とか、カラープリンターで必死で証書を偽造しまくっている狂気あふれる光景とか、そして誰も幸せにならないラストとか・・・。
まさに、角田光代ワールドの真骨頂という感じの1冊でした。
ちなみに梨花の不正行為がエスカレートしていったのは、借金を肩代わりしたことで光太を傷つけないよう、 「お金なんていくらでもあるのよ」と振舞う必要があったからなのですが。
そのやり方がハンパねぇんですよ。
GWにホテルのスイートルームに10連泊するわ、逢瀬のために二子玉川(セレブの街よ)に家賃28万円のマンションを借りるわ、光太にポンと車を買い与えるわ・・・。
いや、めちゃくちゃすぎるでしょ。
って感じなのですが。
そんなこんなで横領額も1億円超ですから。
それなのに、読んでいると梨花にどんどん感情移入していっちゃうんですよ。
多分私は梨花のように若き男の子に溺れることはないし、(当たり前だけど)お金を横領することもないでしょう。
梨花の歩んだ道は私の日常からものすごく遠いところにあるのに、それでも自分を重ねてしまうくらい、梨花が「あちら」側に足を踏み入れてしまう過程やその時々の感情がリアルなのです。
うまい、うますぎるよ!角田光代・・・!!
まさに、対岸の彼女・・・じゃなかった、
対岸のリアル。
梨花のストーリーだけでなく、梨花の高校時代の友人である木綿子、主婦時代の友人である亜紀、大学時代の恋人である和貴という3人の目線で、ニュースで知った梨花の事件に思いを馳せるシーンが描かれるのですが、この3人がまたそれぞれにお金の問題を抱えていて・・・。
このサイドストーリーもすごく自分から遠いようでいながら、やっぱりどこか自分に重ねられるところがあって、感情移入して身につまされてしまうんですよね。
光代、スゴイよ・・・。
呼び捨てでスンマセン。
救いのないラストだけど
同じ角田光代作品の「八日目の蝉」が悲しいながら希望にあふれるラストだったのに対し、こちらの「紙の月」のラストはハッキリ申しまして何の救いもありません(;’∀’)
顛末がはっきりと描かれるわけではないのですが、上でも書いたように誰も幸せにならないであろうことを否が応でも感じてしまうラスト。
それでも、予想外に読後感が悪くないのは、
平凡な主婦のままだった方が、梨花にとっては不幸だったかもしれない。
と思うからなんですよね。
梨花の夫の正文は、一見すると優しくて理解のある夫なのですが、軽いモラハラ気質といいますか・・・。
梨花のことをちょいちょい見下す言葉を発するんですよね。
折に触れ、正文は梨花の一か月に稼ぐ額がいかに少ないか、さりげなく言及する。海外旅行はもちろん、家計の足しにもローン返済の足しにもならないと、はっきりではなく遠回しに言うのである。
彼は梨花に、知らしめているのだ。仕事の中身も重要性も経済力も、自分のほうが梨花よりはるかに上であると。
言われるたびに小さな違和感を感じつつも、気付かない振りをして梨花は日々やり過ごしているのですが・・・。
ハッキリ言って。
私、夫にこんな言われ方したら、ブチ切れ案件ですよ。
この夫の妻として、一歩下がって生きていくことが果たして梨花にとって幸せだったと言えるのか。
やっていることは犯罪だし、結局光太との関係も最後はうまくいかなくなってしまうのだけれど、それでも梨花にとっては選んだその道の方が幸福だったのではないか。
そんな風に思わされるのです。
ラスト近くで、後戻りできなくなった梨花が、いくつもの分岐点で選ばなかった「もし」の先に思いを馳せるシーンがあるのですが。
まったくもって個人的な解釈で、梨花が「あちら」側に足を踏み入れてしまう根底にあった分岐点をひとつ選ぶならば。
結婚後に、専業主婦になったこと。
ではなかろうかと思うんですよね。
最初は特に「養ってもらっている」という感覚もなかったのに、正文のちょっとした発言をきっかけに「何もかも夫の許可を得てしている」という感覚がついてまわるようになってしまった梨花。
この「誰かのお金をつかわせてもらっている」という感覚。
人によるとは思いますが、私だったら強烈なストレスを抱えて過ごすと思います。何を買ってもどこに行っても楽しくないんじゃないだろうか。
ましてや梨花の夫はプチモラハラ気質。ものすごい閉塞感だと思います。
そんな日々を過ごしたことが、後に「自由に使えるお金」への欲望をゆがんだ形で爆発させてしまった一要因でもあったんじゃないかな〜なんて思いました。
もちろん専業主婦の方がみなそうだと言っているわけではなく(当たり前じゃ)、あくまで「梨花の場合は」です。
つまり、何が言いたいかと言いますと。
自分でお金稼ぐのって超大事!!
ということですね。え?そこ?
全然方向性が違うのに、読み終わった後こちらの本を思い出しましたよ。
西原理恵子さんが自分の娘に当てたメッセージ的な1冊。終始「自分の足で立つべし!」と訴えるこの本のキャッチコピーは。
王子様を待たないで。お寿司も指輪も自分で買おう。
そう、まさにその通りですよね。
自分の欲しいものは自分の稼いだお金で手に入れたい。自分の行きたいところは自分の稼いだお金で出かけたい。
健全な物欲を育むために、「稼ぐ力」を失わないようにしたいと改めて思った私でした。
スミマセン。なんか話がズレちゃった。
角田光代、適齢期?
角田光代さんの小説は数年前に何冊か読んだことがあるのですが、そのときは登場人物への感情移入や共感を感じることもあまりなく、何となく読後感の悪さだけが印象に残っていました。
なのでしばし遠ざかっていたのですが、直近で読んだ「八日目の蝉」や「紙の月」でかなりイメージが変わりました。
こんなに登場人物に自分を重ねたり思いに共感したり、その世界観に浸り切ったりできる小説は久しぶりで、それがすっごく意外でした。
それって私が年を重ねたことで、登場人物の思いを理解できるようになったからなんですかねぇ。
アラフォーとなった今が、まさに「角田光代」作品を読む適齢期なのかもしれないですね。
過去に読んだことのある作品も含め、少しずつ読み進めてみたいなと思いました。
めちゃくちゃ余談ですが、この「紙の月」の舞台は田園都市線(渋谷から神奈川方面に走る路線です)。
梨花の住まいは長津田駅、勤め先はすずかけ台駅なのですが、私、すずかけ台駅にキャンパスがある大学に通っていたので、地名とかがめちゃ身近で、より世界観に浸りやすかったです(;’∀’)
あの界隈にお住いの方、ぜひご一読を♪
以上、【紙の月】読書感想でした!
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