2020年、16冊目の読書感想です。
無罪請負人 刑事弁護とは何か? (角川新書) [ 弘中 惇一郎 ]
刑事事件の弁護を専門とする弘中惇一郎弁護士が、自身の担当した事件の裁判と絡めながら「人質司法」と呼ばれる日本の刑事司法の問題点について語った1冊です。
弘中惇一郎弁護士のこと
弘中惇一郎弁護士、ご存知ですか?
名前は知らなくても、お顔を拝見すると「あぁ、この方か」と思われる方が多いのではないでしょうか。
そう、つい最近まで世の中を騒がせていたカルロス・ゴーン氏の弁護人を務めていた弁護士です。
私はゴーン氏のことで頻繁に名前を拝見するようになるまで存じ上げなかったのですが、厚労省の村木厚子さんやロス疑惑の三浦和義氏、政治家の小沢一郎氏、鈴木宗男氏、元ライブドアの堀江貴文氏といった、メディアを賑わせた数々の有名な事件の弁護を担当しており、有罪率99.9%と言われる日本の刑事裁判において多くの無罪判決を勝ち取っていることから「無罪請負人」とも評されているそうです。
弘中弁護士が弁護人を務めた方たちの名前を眺めてみると、「メディアから徹底的に叩かれた」人たちが多いですよね。
もちろんニュースにもならない名もなき方の弁護も担当されているとは思いますが。
そういったある意味話題性のある事件を数多く担当し、しかも「無罪請負人」というなんだか不遜な肩書き(マスコミが勝手に言っているだけでしょうけど)からは、「庶民の味方」というより、
売名目的で社会の敵を弁護し、罪を犯した人物を無罪に導く悪徳弁護士
みたいなイメージを思い浮かべてしまいますが・・・。
下町ロケットの悪役弁護士的な?
ゴーン氏の弁護人に就いたこともそのイメージを増幅させていますよね。
でもこの本を読むと、弘中弁護士に対しても、彼が弁護人を務めた方たちに対しても、180度イメージが変わります。
弁護のためにやっていることの泥臭さとフットワークの軽さは不遜なイメージからは程遠く、弘中弁護士の弁護により無罪を勝ち取った方たちはそもそも逮捕起訴されるような必然性がどこにもなく。
そして、ゴーン氏のニュースの中でも散々言われていた日本の司法の問題点が「あぁ、こういうことだったのか」と腹落ちし、同時に「国家権力って妄信してはいけないんだな」と心の底から痛感させられる・・・。
いろいろな意味で衝撃的な内容で、我が身を守るという意味でも全ての方に一読をおススメしたい1冊です。
犯罪者は作られる
そもそも、私もそうですけど、日々真面目に生きていれば、よっぽど不運なことに巻き込まれでもしない限り、逮捕起訴されるなんてことは自分の人生には無縁だと思って生きていますよね。
でもでも・・・。
しかし、それは違う。ある日突然、まったく身に覚えのない罪を着せられ、人生が破壊されるという事態が私たちの身に起こらないという保証はない。(中略)刑事事件は私たちとは決して無縁なものではない。そのことをまず伝えておきたかった。
マジで↑この通りなことが起きていることに慄然とします。
全部が全部というわけではない(と思いたい)でしょうが、あらかじめ検察がストーリーを作り、そこに当てはめるように犯人を仕立て上げていくということが、当たり前のように行われているんだそうです。
検察ストーリーに合うように調書を作成し、ストーリーに合わない証拠や供述は採用しない。
厚労省の村木厚子さんの事件で大阪地検がデータ作成日時の改ざんを行ったことは、まさに「ストーリーに合わないから」だったわけですが、弁護団がひとつひとつ地道に事実を積み重ねてそのストーリーを突き崩していく過程はゾクゾクすると同時に、
弁護士が有能でなければ、無実の人も簡単に有罪になってしまうんだな・・・。
とヒヤリとさせられます。
何となく私も含めて日本人って国家権力というものを無条件に信頼しているというか、「お上がそう言ってるんだからそうなんだろう」みたいに納得しちゃうところがありますよね。
ここで言う「国家権力」というのは政治家というよりも、省庁などの国の行政組織を指しています。
特に警察や検察などは「正義」の側に立っていると信じているゆえに、「まさか無罪の人を警察や検察ともあろう組織が逮捕するわけないだろう」と思うし、「もし逮捕後に無罪であることが分かったら、当然釈放するだろう」と無邪気に信じていますが・・・。
決してそうではないことを肝に銘じておきたいと思いました。
メディアの罪
本書では、弘中弁護士が弁護を務めた事件の中から、
- 村木厚子さん(郵便不正事件)
- 小沢一郎氏
- 鈴木宗男氏
- 安部英医師(薬害エイズ事件)
- 三浦和義氏(ロス疑惑事件)
という5つの事件を主に軸として、その過程での証拠集めなどの具体的な弁護活動や、刑事司法の問題点などが紹介されています。
無罪を勝ち取れなかった事件も含まれています。
この5つの中にはリアルタイムでニュースを見ており何となく知っていた事件もあれば、詳細は全然知らなかった事件もありますが、共通して感じたのは、
メディアで報じられていた内容とはずいぶん違うな・・・。
ということでしょうか。
検察が独自のストーリーにこだわって「事実」をないがしろにしていることにも驚きますが、それをそのまま垂れ流して「犯罪者」であることが確定しているかのように総バッシングしていたメディアの罪深さにもため息が出ます。
これらの事件だけではないですが、「逮捕・起訴=犯罪者」ではないのに、その時点でメディアは完全に犯罪者扱いですもんね。
いったん逮捕されてしまったら、焦点は「本当に罪を犯したのかどうか」ではなく「罪を認めるかどうか」みたいな状態になり、無罪を主張していると「罪を犯していながら否定するなんてけしからん!!」という総叩き状態になってしまう・・・。
じゃあどうすりゃいいんだよってな。
私の記憶に残っている範囲だけでも、小沢一郎氏や鈴木宗男氏へのバッシングは目を覆いたくなるものがありましたが、弁護団の努力により法廷で真実が明らかになったとしても、その事実が報じられることはほとんどなく・・・。
結果「罪を犯したヤツが、弁護士の手腕で罪を免れた!」みたいなイメージだけが残るという・・・。
私も本書を読むまでは勘違いしていたことがたくさんありました。
本書で語られる内容に対して反論の余地はいろいろあるのかもしれないですが、ほとんど報じられることのない弁護側の言い分をこうして知ると、いかにメディアの流す情報に刷り込まれていたかということがよく分かります。
しかしほーんとこういうことって何度も何度も繰り返されていると思うのですが、報じるメディア側もそれを妄信する私たち側もどうして進歩しないのでしょうね・・・。
また、ゴーン氏のニュースでたびたび「長期勾留の不当さ」だったり「勾留生活の環境の劣悪さ」などが話題になっていましたが、何となくそれに対しても「罪を犯したんだからわがまま言うな」くらいな思いを抱いちゃいません?
でもそれってメディアが勝手に既に「犯罪者」扱いしているだけで、何も罪を犯していないことだってあり得るわけです。
村木厚子さんの例で言えば、拘束期間は164日。何も罪を犯していないのに、です。
否認していると保釈が認められないので、無実であると主張するほど(それが本当であっても)拘束期間が長くなるという不思議なロジック・・・。
もし自分や家族が何もしていないのにある日突然勾留されて、劣悪な環境に何十日、場合によっては何か月も留め置かれたら・・・。と思うと身震いがします。
こういった「司法の問題点」って我がごととして捉えにくいというか、自分とは無縁の世界の出来事だと思いがちですが、「すぐそこにある危機」として少なくとも現状を知っておくことは大事だなと痛感しました。
内容の濃い1冊
うーん。なんだかうまくまとめられませんでした。
え?いつも?(;’∀’)
いろいろと衝撃的な内容でそれを伝えられたらと思ったのですが、とにかく内容が濃くて安易に要約することもできず・・・なんだかフワッとした感想になってしまいました。
とにかく言いたいのは、
「陰謀論」とか「国策捜査」とか、小説やドラマの中だけの話でしょー!!と思っている方にこそ(え?私?)読んで欲しい!
そして、

デキる弁護士、ヤベェ!
ということでしょうか。え?そこ?
ひとつ前の読書感想で。
もうキラキラキャリアすぎて目を開けていられない~!と書きましたが、弘中弁護士も弁護士としては言わば「キラキラキャリア」なわけで、もし私が落ちこぼれ弁護士だったら素直な気持ちでは読めなかったかもななんて思いもしました。
こうして自分が住む世界とは全然違う話の方が、純粋な好奇心で素直に読めますよね(;’∀’)
それでいいのかという問題は置いておいて。
というわけで、あっち行ったりこっち行ったりになりましたが、刑事司法を知るのにおススメの1冊です。
以上、【無罪請負人 刑事弁護とは何か?】読書感想でした!
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